犬が吠える理由

無駄吠えする犬

犬は意味があって吠えている

「無駄吠え」という言葉からは、いかにも「意味もなく吠えている」という印象を受けますが、犬は意味もなく吠えているわけではありません。よく耳にする言葉でもありますが、犬の立場を考えれば、あまり適切な表現ではないのです。

飼い主さんは、ムダと一言で片付けるのではなく、吠える理由を考えることが重要です。

犬が吠える主な理由6つ

犬が吠えるのには理由があります。
主に以下の6つの理由が考えられます。愛犬が吠えだしたら、これはなんのための「吠え」かを、まず考えてみるようにしましょう。

対策と注意点については後述します。

1.要求があるから吠える 【要求吠え】

「おなかがすいた」「おやつちょうだい」「遊んで!」「外に出たい」などの要求を飼い主さんに伝えようとして吠えているケースです。

ごはんや散歩の前に必ず吠える子もいます。このときに「はいはい、ちょっと待っててね~」などと返事をしたり、目線を合わせたりすることは避けましょう。
反応をすれば、犬は「吠える」ことでのコミュニケーションが成功したとみなすためです。

2.警戒、恐怖、威嚇で吠える 【警戒吠え】

「誰かいるのか!?」「入ってこないで」「怖いからこっちに来ないで」「気に入らない」などの不安や警戒心から吠えていることがあります。

急な物音や気配に対して吠えたり、自分のテリトリーを守るために吠えたりと、ネガティブな理由が絡んでいます。
何に対して不安や恐怖を感じているか見極めて対応していくことが大事です。

3.テンションが上がって吠える 【興奮吠え】

「うれしい」「やったー!」などの喜びを通り越して興奮したときに吠えるケースです。

大好きな飼い主さんが帰宅したときや、大好きな遊びがはじまるときにテンションが上がりすぎて吠えてしまいます。また、飼い主さんだけでなく、ほかの犬や人に対して「遊びたい!」というような気持ちの高ぶりから吠えてしまうこともあります。

興奮して吠えているので、一緒になってテンションを上げて対応すると、余計に「吠え」を助長させることになるため注意が必要です。

4.さみしいなどの不安から吠える 【不安吠え】

「一人にしないで」「早く戻ってきて」などの不安な気持ちがあふれてしまって吠えることも。

お迎えしたばかりの子犬が、まだ一人でいることに慣れていないだけという場合もありますが、飼い主さんが離れることに極度の不安をもっている分離不安症の可能性もあります。
分離不安の場合、飼い主さんがちょっと見えなくなるだけで吠えはじめ、飼い主さんが不在の間ずっと吠え続けるだけでなく、ものを破壊するなどの問題行動に発展することもあります。

5.犬としての本能から吠える 【遠吠え】

近所の犬の吠え声や、遠くから救急車のサイレンの音などが聞こえてくると、「ワオーン」とよく響く大きな声をあげることがありますが、これが「遠吠え」です。

遠吠えは、遠くにいる仲間とのコミュニケーションのためにおこなう、犬の本能的な行為です。
また、ストレスからも遠吠えすることがあるといわれています。

6.苦しい、痛いなどを訴えて吠える【体調不良吠え】

体調不良の場合は、吠えているというよりも鳴いているという表現のほうが適切かもしれません。具合が悪いことを訴えたり、痛くて思わず声が出てしまったりと、飼い主としては一刻も早く気付いてあげたいケースです。

いつもと吠え方や吠えるタイミングが違う、急に吠えやすくなったなどの場合は、体調不良を疑い、食欲や動きの変化などもあわせてよく観察するようにしましょう。

「吠え」の対策と注意点(6つの理由別)

フードを前にする犬

1.要求吠え

要求を飼い主さんへ伝えるために吠えているので、吠えている最中は無視を徹底するのが基本です。

「ちょっと待っててね」などの声がけは、吠えれば相手をしてもらえるという学習につながります。要求吠えをより強化することになるため注意しましょう。
愛犬を注意するような「ダメ!」といった声がけも、「ダメ」の意味を愛犬がしっかりと学習していなければ逆効果になります。

要求吠えは、前もって予防することが重要です。「吠え」の主な原因となる「欲求不満な状態」を極力つくらないよう心がけましょう。
吠える前にたっぷり遊んであげる、長い間構ってあげられないときには、一人遊びができる丈夫なおもちゃを与えておくなど、対策するのがおすすめです。

無視するときは目線も注意!

アニコム パフェ 鈴木 知之先生

声をかけないことに加え、目線にも注意が必要です。
目が合うと「気にしてくれた=もっと吠えよう!」という理解につながりやすいため、無視する際は目線にも気を付けましょう。

2.警戒吠え

何に対して警戒しているかによって対応は変わります。警戒のレベルによって効果に差はありますが、ケースごとの対策例をいくつか簡単にご紹介します。

外の物音に反応して吠えている

  • 環境を整える
愛犬の居場所を窓から遠ざける、ケージやクレートに布などを被せるなど、外からの刺激を減らします。
  • 音に慣らす
小さな音から少しずつ慣らしましょう(音源はインターネットや動画サイトに載っているものでOK)。最初は、苦手な音を流す前におやつをあげておき、慣れてきたらおやつは音の後にご褒美としてあげるようにします。
  • ハウストレーニング
安心できるハウス(クレートやケージ)に日常的に慣れさせます。ガムなどの長時間楽しめるおやつと一緒に入れると効果的。
  • 意識を別のものへ向けさせる
おやつを使ったゲームをするなど、意識を別のものに向けさせて、頭を使わせるのも有効です。

テリトリー(自分の居場所)を守るために吠えている

  • フリーに動けるスペースを狭くする
家の中で愛犬が自由に動けるスペースを狭くしましょう。広すぎると「広いテリトリーを守る=常に警戒する」となりやすい傾向にあります。
  • 音に対するイメージを変える
インターホンが鳴ると「知らない人が来る」ではなく、「楽しいことがある」と思わせるようにします。家族や友人にインターホンを押してもらい、音が鳴った瞬間にご褒美をあげましょう。インターホンの音を録音しておくと、ほかの人の手伝いがなくても練習できます。
  • 来客は外でお出迎え
来客時は外でお出迎えし、先に家の中へ入ってもらうと、「知らない人が入ってきた」という感覚が薄れるためおすすめです。

3.興奮吠え

興奮状態のまま、一緒になってテンションを上げて対応したり、興奮している対象に近づいたりすると、さらに強く吠えるようになってしまいます。
興奮していることを叱るのではなく、落ち着くまで待つか、興奮を落ち着かせるようにしましょう。

また、興奮の対象が飼い主さんか飼い主さん以外かで対応が異なります。

飼い主さんに対して吠えている場合

興奮している間は相手をしないようにしましょう。声がけはもちろん、目線も合わさないようにします。
愛犬の興奮がおさまったときに、落ち着いたテンションで関わるようにしましょう。

興奮の対象がほかの犬や人の場合

まずは、興奮の対象から離れることを最優先にします。飼い主さんの声が耳に入るところまで離れたのちに、意識を飼い主さんに向けるために「おすわり」などの覚えているコマンドを声がけして、できたことをしっかり褒めましょう。

吠えることが定着する前に、「飼い主さんに意識を向ける=よいことがある」という学習を丁寧に積み重ねていくことが大事です。

4.不安吠え

不安のレベルによって対応は変わりますが、愛犬が一人でいる時間を楽しめるようにしていくことが、基本的な対応です。

たとえば、おやつを詰めることができる知育おもちゃを使い、考えながら取り出すことを楽しんでもらいましょう。そのうえで、愛犬から離れる練習を少しずつ繰り返していきます。
離れる時間は、最初は数秒からでよいでしょう。寂しくて吠えてしまう前に戻ることが大切です。「離れてもちゃんと戻ってきてくれる」ということが理解できれば、少しずつ「吠え」は軽減していくはずです。

もし、パニックで自傷行為や下痢・嘔吐などの体調不良を伴うようなレベルの場合は、信頼できるかかりつけ獣医や行動診療認定医が在籍するクリニックへ早めに相談することをおすすめします。

5.遠吠え

本能的に吠えている場合は、根本的に解決するのはなかなか困難ですが、特定の音に呼応して吠えるのであれば対策することは可能です。その音を聞こえにくい状態にしたり(犬を音から遠ざける、防音グッズの使用など)、別の音を室内で流して音の影響を受けさせないようにしたりすると一定の効果が期待できます。

また、もし吠えてしまったときに、飼い主さんがおやつやごはんなどで気を引くことができるのであれば、それを繰り返すことで吠えなくなっていく可能性もあります。

ストレスから遠吠えをしている場合は、その原因を取り除くことが解決策につながります。
運動不足からくるストレスであれば、散歩や遊びの時間を十分に確保します。構ってあげられないようなときには、退屈しのぎになる丈夫なおもちゃを与えるなどの工夫をしましょう。

6.体調不良による吠え

吠え方や吠えるタイミングがいつもと違う、急に吠えやすくなったなどのほかに、食欲がない、動きが違う、動きたがらないといった普段と異なる様子が見られたときは、すぐに動物病院に連れていきましょう。

「吠え」を防止する5つのコツ

上目づかいの犬
「吠えたときにどうするか」を知っておくことはもちろん大切ですが、吠えないようにするための対策も理解しておきましょう。「吠え」を予防するコツについて紹介します。

1.前もって欲求を満たす

犬には本能的に「運動欲求」や「噛みたい欲求」があります。これらの欲求が満たされずに欲求不満な状態が続くと、要求吠えが出やすい状態になります。

とくに要求吠えの場合は、吠える必要をなくすために原因となる欲求を事前に満たしておき、予防することが重要です。

2.社会化トレーニング

社会化トレーニングは、「警戒吠え」や「不安吠え」の軽減につながります。
生後3~12、13週齢の子犬は社会化期と呼ばれ、子犬自身が大きな好奇心を持っている時期です。見たもの、聞こえたもの、触れたものをどんどん吸収して学んでいきます。

社会化期が終わるころから少しずつ警戒心が芽生えはじめます。すぐに警戒するわけではないですが、生後半年くらいで警戒心が好奇心を上回る傾向にあります。
警戒心が目立つようになると、はじめてのものを柔軟に受け入れにくくなるため、お迎えしたばかりの子犬には意識的に取り組んでおきたいことです。
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3.ルールを教える

犬たちは「どうすれば自分の要求が通るのか」をはじめから理解していないため、ルールを丁寧に教えてあげることが「吠え」の根本的な解決につながります。

「吠えずにいたらごはん」「おすわりしたら遊んでもらえる」など、一貫性をもって教えてあげましょう。お互いに納得したルールが共有できれば、精神的にも安定し、落ち着いてきます。

4.パターンを変える

犬は飼い主さんが教えなくても、自分にとってよいことが起きるお決まりのパターンを自然と学習します。このお決まりのパターンが原因で、「吠え」が習慣化してしまっていることも多くあります。

たとえば「ごはん前に吠える」というケースです。
犬にも体内時計があるといわれているため、毎日決まった時間にごはんをあげていると、だいたいの時間を把握するようになります。
さらに、ごはんを準備する食器の音や、ごはんの袋を開ける音がしたらもらえることも学習します。

もし、ごはん前に吠えるようであれば、お決まりのパターンを変え、いつもの習慣を崩してみましょう。ごはんの時間帯をランダムにしたり、ごはんを準備したあとに時間を空けてからあげたりして変化させます。

また、あらかじめごはんを1回分ずつ袋などに小分けしておくことで、ごはんの準備時間をなくすという方法もおすすめです。
習慣が崩れるまで少し時間はかかりますが、焦らず取り組んでみましょう。

5.急な環境変化に気を付ける

引っ越し、就職、結婚など、一緒に暮らしているなかで、生活環境の変化は起こるものです。ただ、大きすぎる変化は注意が必要です。変化を受け止めきれずに、パニックから吠えてしまう子もいます。

もし引っ越しと就職が同じタイミングになれば、住環境の変化だけでなく、一緒に過ごす時間も変わってしまい、愛犬に影響を及ぼす可能性も……。
それぞれのタイミングをなるべくずらす、事前にそれを想定したトレーニングをしておくなど、変化はできるだけゆるやかにしてあげましょう。

先輩飼い主に聞いた! 愛犬は吠える?

吠える犬
犬の「吠え」に困っている人はどれくらいいるのでしょうか。「みんなのブリーダー」で子犬を迎え、実際に犬を飼っている先輩飼い主304人にアンケートを取り、聞いてみました。

たまに吠える、またはほとんど吠えない犬が多数派

愛犬は吠えるか グラフ
「たまに吠える」という人が、133人で全体の43.8%ともっとも多く、次いで「ほとんど吠えない」という人が87人と全体の28.6%となりました。また、「しょっちゅう吠えて悩んでいる」と答えた人は、26人と全体の8.6%でした。

愛犬の吠えに悩む人は一定数いるものの、悩むほどではない人、それほど吠えていないと感じている人が多数派のようです。

また、愛犬はどんなときに吠えるのかも聞いてみました。「ほとんど吠えない」と答えた人を除いた、217人が回答してくれています。(複数回答可)

警戒吠えが最も多く、感情吠え・要求吠えのケースも

どんな時に吠えるか グラフ
もっとも多かった回答が、「サイレンやインターホン、ほかの犬の鳴き声など外部の音や刺激に対して吠える」で、全体の40.6%、97人の人が該当しました。「よその犬や人に対して」吠えると答えた人も40%を超えて88人と多く、次いで「飼い主や家族が帰ってきたとき」と「何かをおねだりするとき」が全体の30%ほどの割合です。

「その他」の回答もご紹介します。

・飼い主の気を引きたいとき (キャバリア/9カ月/オス)
・遊んでいて興奮したときに吠える (ボストンテリア/5カ月/メス)
・飼い主がいるのに姿が見えないとき (キャバリア/5カ月/オス)
・家族が出かけるとき (トイプードル/7か月/オス)
・鏡に写った自分に吠える (アメリカンコッカースパニエル /11カ月/メス)

吠えないしつけをする人が多数。愛犬への理解を示す声も

吠えないようにしつけているか グラフ
「愛犬が吠えないようにしつけをしていますか」という問いには、全体の72.8%、217人が「している」と答えています。あとの27.2%、59人の飼い主さんは、「しつけをしていない」ようですが、それにはこんな理由がありました。

【愛犬が吠えても、とくにしつけをしていない理由】

・一回だけ、ワン、と吠えたら終わりなので。 (シーズー/7カ月/オス)
・とくに問題とする行動では無いので。 (チワプー/ 9カ月/オス)
・環境因子が大きいと感じるから。 吠えない環境作りをしようと思う。(コーギー/1歳/オス)
・自然のままがいいと思うから。 (柴犬/1歳/メス)

など、愛犬の行動に理解を示す意見が寄せられました。

「困るほどではないから」「どうすればいいかわからないから」という意見も多くみられました。

ドッグトレーナーに聞いた!犬の吠えに関するQ&A

愛犬が「喜んでいるとき」と「興奮しているとき」を見極めるポイントは?
犬の感情表現として似ている部分もあり、あまり明確な線引きがされていないケースをよく見かけます。基本的な対応が異なってくるため、飼い主さんとしては違いを正しく理解しておきましょう。
以下のような基準で線引きしておくとよいと思います。

【喜んでいるとき】
飼い主さんの話を聞くことのできる状態(「おすわり」や「名前に反応する」など、普段できていることができる)

【興奮しているとき】
飼い主さんの話に耳を傾けない状態(普段できていることができない)

興奮状態を「とても喜んでいる!」と勘違いして、テンション高めでたっぷり褒め続けていると、いつの間にかどんどん興奮するようになっていくため注意しましょう。
見慣れないもの、過去に嫌な思いをしたものに対して吠えてしまう…。どうしたらいい?
対象となっている物事に少しずつ慣れさせるようにしましょう。

まずは怖がっている対象から離れさせて、逃げられる距離をとります。吠えずに済む距離まで来たら、おやつを食べられるかチェック。食べられなければさらに離れ、同様におやつを与えてみます。その場で様子を見て、吠えなければ再度ゆっくり対象に近づいて徐々に慣らしていきます。

小型犬であれば、抱っこしながら「大丈夫だよ」と優しく声がけすることも効果的です。落ち着かせて、吠えなくなったら褒めましょう。
ただし、興奮して強気に吠えている場合、抱っこは逆効果になるため見極める必要があります。

まとめ

撫でてもらっている犬
いかがでしたか。犬の「吠え」には、ちゃんと理由があることがわかりました。まずは理由を察する努力をしましょう。
「吠え」は犬からのメッセージです。「うるさい!」と一蹴するのではなく、ぜひその声に耳を傾けてみてください。「愛犬がなんと言っているのか」を理解する姿勢は、「吠え」の解消だけでなく、お互いの関係をより深いものにしてくれるはずです。